今回のテーマは借地権の無断譲渡と解除についてです。
借地権を地主の許可なく勝手に第三者に譲渡売却した場合にはどのようになってしまうのか解説していきます。
まず、大前提として、賃借人は賃貸借契約の目的物を賃貸人の許可なくして第三者に譲渡や又貸し(転貸)することはできません。
その原則を規定している民法の条文を見てみましょう。
(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
民法612条1項:「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。」
同条2項:「賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。」
とあります。
賃貸借契約は継続的契約なため、当事者間の信頼関係が基礎になっており、それを裏切るような行為は原則として解除原因になってしまいます。
借地権も賃貸借契約の目的物にあたるので、勝手に第三者に譲渡等をすることはできません。
賃貸人の承諾が得られない場合には、借地権などの賃借権の譲渡を諦めるしかないのか…
特に借地権の譲渡については実は裁判所の手を借りる方法があります。
(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
借地借家法19条:「借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。」
簡単に言うと、裁判所が地主の代わりに許可をしてくれる制度です。この制度を利用すれば、基本的にはほとんど認められます。
ただし、承諾料にあたる金銭を地主に収める必要はあります。裁判所の手続きになるため、専門的な知識が必要で手続きは非常に面倒なだけでなく、期間も半年程度以上かかってしまいます。
では、地主や裁判所の許可を得ることなく勝手に借地権を売ってしまった場合はどうでしょうか。
上記の民法でもありましたが、基本的には「解除原因」となり、地主から解除される可能性があります。ここでポイントは地主からの解除の主張が必ずしも認められるとは限らないという点です。
無断転貸・譲渡があると契約を「解除することができる」と確かにありますが、判例上は信頼関係の理論を用い、解除を制限しています。
実際に参考判例を見てみましょう。
♦参考判例:最判昭和28年9月25日
判旨:「賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用収益を為さしめた場合においても,賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては,同条の解除権は発生しないものと解するを相当とする」
としています。
無断転貸があった場合でも、賃貸人に対して背信的な行為に当たらないと判断できる特段の事情(特別な事情)がある場合には、解除原因はないということになります。
つまり、単に法律で定められている要件を満たしただけは解除ができず、当事者間の信頼関係を破壊したと言えるほどの重大な契約違反がなければ解除ができない、ということになります。
この背景には、人が生きる上で重要な「衣食住」の「住」は容易く奪うべきではない、家は人が生きる上で重要な基盤である、という価値観が根底にはあります。
それでは、具体的にどのようなケースが信頼関係を破綻していないと言えるのでしょうか。
実際に賃貸人と賃借人の信頼関係が破綻されたか否かの判断基準は、まずは賃貸人に対して経済的な不利益があるかが重要なポイントなるでしょう。
例えば、無断転貸により資力の無い(賃料を支払えそうもない)者や反社会的勢力が転借人となり、賃料の回収ができそうもない等です。
もちろんそれだけでは判断できず、人的信頼関係も含めて具体的な事情を総合的に考慮して判断されることになります。
判断基準の要素をまとめると…
借地よりも借家の方が居住に直結する事柄であるため、賃借人側が保護される可能性が高いと言えます。
事業用よりも居住用の方が解除原因になりにくくなると考えられます。居住用だと住むところが無くなってしまうため。
転貸や譲渡した先の人間が家族か、また、他人かで異なってくると考えられます。
当然、夫が息子に無断で転貸するよりも、他人に賃借権を譲渡・転貸する方が解除原因の大きな一要因になると考えられます。
賃借物がそのまま利用されているようであれば、解除原因とは判断されにくくなると考えられます。逆に転借人の用法が乱暴で、家屋が滅茶苦茶等の場合は、解除原因になると考えられます。
無断転貸により賃貸人が大きな損害を被るようであれば、これもやはり解除原因となることが考えられます。
無断転貸をすることが仕方のないような理由があった否か
無断転貸の経緯に致し方ない理由があれば、解除原因とはならない方向に働きます。
上記のような様々なことを考慮して、信頼関係が破綻されたかが決まっていきます。
人が暮らしていくうえで、「家(住むところ)」は非常に大事です。
家を新しく探すというのは簡単なことでもないので、判例は賃貸人と賃借人・転借人との調整を上手く図るために「信頼関係理論」という方法によって均衡を図っていると言えます。
関係する人が多く出てくるとその分法律関係は複雑になります。借地権、底地権、さらには相続、共有等借地権に関連する問題やトラブルを上げていくとキリがありません。
事前にトラブルを回避する、リスクヘッジをしておくことが非常に重要になりますが、想定されるリスクはなかなか思いつかないことでしょう。
また、実際にトラブルになったとしても、弁護士や司法書士等の法律に詳しい専門家に相談してもどのように解決をしていけばよいかという明確な答えを持っていることはそう多くありません。
借地権の専門業者と謳っている不動産業者も同様です。実際に相談してみて、どのような実績があるのか、担当者の知見はどうかしっかり確認することが重要です。
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